「香りを科学する」その12香りの意外な相乗効果とは?!
~フローラルな風味の黒コショウ~

黒コショウといえば、食卓でもポピュラーなスパイスのひとつです。
特に牛肉や青魚、乳製品など、匂いの強い食材や、味の濃いものによく合い、味の淡白な料理に用いれば、アクセントとなりおいしさを引き立てます。
ピリッと辛い風味を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

ところが、ピリッとした辛さだけではない、フローラルな風味を持つ黒コショウが存在するのです。
私たちが普段使っている黒コショウとはいったいどこが違い、どのような特徴を持つのでしょうか。

今回は、その不思議なコショウの香気成分の秘密をご紹介したいと思います。

コショウとは?

コショウは、インド原産コショウ科コショウ属のつる性植物です。
果実の収穫時期や製法の違いにより、黒コショウ(ブラックペッパー)、ホワイトペッパー、グリーンペッパーなど、風味の異なるコショウが作られます。紀元前500年代にはすでに栽培されていたと言われており、長い歴史の中で世界中の料理に幅広く使われるようになりました。

日本でも代表的なスパイスであり、ホールやあらびき、パウダーなど、目的に合わせた形態で利用されています。エスビー食品もメーカーシェアNo.1※としてさまざまな商品形態を展開しています。

インテージSRI調べ スパイス市場 コショー(2012年4月~2017年3月推計販売規模)

  • コショウ栽培風景
  • コショウの実

通常の黒コショウ(乾燥品)は、熟す前のコショウの果実を摘み取り、天日乾燥させたものです。
そして、フローラルな風味を持つ黒コショウとは、噛んだときに口の中でプチッとはじけるような食感を持たせるため、摘み取ったコショウの果実を乾燥工程なしで加工した「生タイプ」のものです。

まずは、通常の黒コショウ(乾燥品)と、フローラルな風味を持つ黒コショウ(生タイプ)の外見を比較してみましょう。

  • 5mm黒コショウ(乾燥品)
  • 5mm黒コショウ(生タイプ)

外見は、表面のシワの有無程度で、特別な違いは見られません。
しかしながら、黒コショウ粒の断面を比較すると、大きな違いが見られます。

  • 5000um×5000um黒コショウ(乾燥品)
  • 5000um×5000um 内部にはたくさんの空胞が!黒コショウ(生タイプ)

生タイプの内部には、乾燥品にはない小さな空胞(液体を蓄えた空間)がたくさん確認できます。
この空胞に、香気成分が溶け込んだ液体が蓄えられています。
実はこれが、フローラルな風味をかもし出す原因となるのです。

実際に、コショウ粒を噛んだ時に放出される香気成分の挙動を見てみましょう。

コショウ粒を噛んだ時に放出される香気成分の測定イメージ

グラフ1:黒コショウ(乾燥品)

リナロールとカリオフィレンの経過時間(秒)に対する相対強度

グラフ2:黒コショウ(生タイプ)

リナロールとカリオフィレンの経過時間(秒)に対する相対強度

リナロールはフローラルな香りを持つ物質です。
一方、カリオフィレンはワックス様の特徴のない香りなのですが、リナロールに重なることで相乗効果を生み出し、リナロールのフローラルな香りを強調する効果があります。

グラフ1、2からわかるように、乾燥品(グラフ1)のほうがフローラルな香りのリナロールが多いことから、こちらのほうが華やかな香りを感じられそうですが、カリオフィレンの放出量が少ないため、噛んだ際のフローラル感を強調する力は弱くなってしまいます。
一方、生タイプ(グラフ2)は、液体を含んだ空胞がはじけた際、リナロールとカリオフィレンがほぼ同時に、程よく放出されるためリナロールのフローラル感を強く感じます。

あまり目立たない香りがあってこそ、フローラルで華やかな香りが引き立つのです。
香りの世界も、名脇役が大切だということかもしれません。

フローラルな黒コショウの風味を、ぜひとも体験してみてください!

今回は、エスビー食品(株)が特許出願した内容の一部を紹介しました。