「香りを科学する」その8瞬間的に変化する香りの秘密
~香りは飛び出してくる?~

みなさん、ミント風味のチョコレートはお好きですか?
チョコレートの甘い風味とミントの清涼感が絶妙の食べ物ですよね。
ミント風味のチョコレートは、チョコレートとハーブを調和させた代表的な食べ物として、挙げられます。

チョコレート+ミント

ところで、ミント風味のチョコレートを食べている時、私たちは香りをどのように感じているのでしょうか?
最近の研究では、食べている時の香りは、喉から鼻に抜けてゆく香気成分がその時の感覚に大きく影響していると言われています。
この現象を、少しだけ科学的に考えてみましょう。

チョコレートの風味はいつ感じていると思いますか? 食べる前でしょうか?それとも食後でしょうか?
実は、口の中で溶けてゆく途中でチョコレートの香りを感じているのです。
チョコレートの立場になって考えてみると、チョコレートが口の中で溶けてゆく間に、香気成分を次々と放出していることになります。
当然、香気成分の飛び出し方によって、香りの感じ方が変わってきても、おかしくありません。

そこで、この香気成分が飛び出してゆく現象を確認するために、一つの実験を行いました。
植物油、砂糖、乳糖を使って、チョコレートの代わりになるものを作ります。
そこにスペアミントのオイルを添加して、ミント風味のチョコレートもどきを作り、これを実験に使うことにします。
スペアミントの特徴的な香気成分としては、「L-カルボン」と「リモネン」が知られています。
それでは、溶かしながら「L-カルボン」と「リモネン」が、どのように飛び出してくるか、見てみましょう。

縦軸:相対強度(イメージ) 横軸:時間(秒) リモネン:みかんの皮のような香り L-カルボン:ミント風の甘いマイルドな香り

「L-カルボン」は食品が溶けてゆくと同時に、増加しつづけていきますが、「リモネン」はそれに少し遅れて増加し、途中から少しずつ減少しています。
食品が溶けてゆく過程で、2つの香気成分の量やバランスが、時間とともに変化している事がわかります。
このように変化する香りも含めて、私たちの『おいしさ』という感覚に結びついているのかもしれません。
香りは時間差で飛び出しているなんて、考えるだけで楽しくなりませんか。

ミント風味のチョコレートには、ペパーミントを使用する場合が多いのですが、今回は実験的なものの為、スペアミントを使用しております。

参考文献:佐川岳人, 工藤由貴, 西口隆夫, 川向孝知, 塩田晃久, 星大海,渡辺淳:日本食品科学工学会誌, 62(7), 335-340 (2015)