「香りを科学する」その6ハーブの香りはたくましい
~「乾燥方法による違い」を"見て"みましょう~

ハーブ類は、乾燥して保存性の高い状態で使用されることが多く、乾燥方法も色々とあります。
生のハーブを乾燥すると、香りが飛んでしまうような気がしませんか?
しかしながら、実際の乾燥ハーブは立派に特徴的な香りを持っています。
そこで、代表的な3種類の乾燥方法でローズマリーを乾燥したもので比較しながら、その秘密を探ってみたいと思います。
今回も、X線-CTという装置を使って葉の構造を確認してみました。
それぞれを生のものと比較すると、葉自体は乾燥して収縮しているのですが、精油が蓄積されている楯状腺毛は壊れずに残っていることが確認できます。
一つを参考までに〇で囲ってみましたが、葉の内側に同様に球状の組織が複数見えます。それが楯状腺毛と言われる精油を蓄積している組織です。
(『香りを科学する』その2、その4 参照)

あえて、乾燥方法による香りの傾向を比較すると、 熱風乾燥品は力強い香り、凍結乾燥品は爽やかな香り、そして真空乾燥品はマイルドな香りというような傾向と言えます。

ローズマリー葉のCT画像

  • 生(対照)
  • 熱風乾燥品
  • 凍結乾燥品
  • 真空乾燥品

ところで、乾燥によって精油を貯蔵する楯状腺毛は壊れないことがわかりましたが、植物の組織自体はどのように変化しているのでしょうか?小さな葉では、組織が収縮していることぐらいしかわからなかったので、茎の組織を同じように観察してみたのが下の図になります。よく見ると、凍結乾燥を行った茎だけは中の組織がかなり壊れているように見えます。

ローズマリー茎のCT画像

  生(対照) 熱風乾燥品 凍結乾燥品 真空乾燥品
茎に対して垂直なCT画像

茎に対して水平なCT画像

それぞれの特徴

熱風乾燥品

茎の中心部分の空洞化が進み、一つ一つの細胞壁が拡大しています。
その分、周辺となる外側の細胞壁も大きさが変化し密集した状態になっています。
これらの現象は、熱の影響によるものですが、このおかげで熱風乾燥品は割れにくい丈夫なものとなります。

凍結乾燥品

茎の中心部の空洞化が進んでいるのに合わせて、その周辺の組織にも亀裂が入っています。
これは凍結乾燥特有の現象で、乾燥の際に凍結した水が一気に飛び出すことにより、 細胞壁が壊れてしまうことが原因です。
しかしながら、熱がかからないのでそれ以外の影響は少なく、綺麗な緑が残った乾燥品が出来上がります。

真空乾燥品

全体的に収縮してますが、茎の中心部の空洞化は、乾燥品の中で最も少ない状態でとなってます。
また、その周辺の組織も他の乾燥方法に比べて、生の組織に比較的近い状態を維持してます。
この乾燥方法も熱がかかりませんので、綺麗な緑が残ります。同時に、乾燥前に近い香りを有します。

3つの乾燥方法を比較したとき、凍結乾燥法だけは植物組織を、大きく壊してしまっています。
これは、悪い乾燥方法なのでしょうか?この乾燥方法の良い点は、ハーブを水戻してみるとその答えがわかります。
それぞれの方法で乾燥した茎を熱湯に5~10分ほど浸した後に、また同じように観察してみました。
グレーになっている部分が水が行き渡っている事を意味し、その度合いが大きいほど、大量の水が存在していることを意味します。
そうすると凍結乾燥品だけは、茎の組織構造が観察できないぐらい、大量の水が組織内に行き渡っています。
これは、凍結乾燥品は内部まで水分が侵入しやすいために起きている現象なのです。
つまり、短時間で充分な水戻しが可能な機能を持ち合わせ、ラーメンやスープなどのアクセントとしての具材とし使用するには、かえって都合の良いものです。

ローズマリー茎のCT画像…熱湯に5~10分ほど浸した後

  生(対照) 熱風乾燥品 凍結乾燥品 真空乾燥品
茎に対して垂直なCT画像

茎に対して水平なCT画像

乾燥品と比較してみると生の植物は、とてもきれいに水分が分布していることがわかります。自然の植物は、やはり偉大です。
併せて、乾燥しても香りがなくならない構造のおかげで、保存性が高められ汎用性が広がり身近に使うことができるのですね。

画像提供:株式会社島津製作所