わさび

わさびってどんなスパイス?

わさびは古くから日本の山間部で自生し、江戸時代(1600年~1867年)には本格的な栽培も始まりましたが、今でも高価なスパイスというイメージがあります。それは、わさびが限られた自然条件の中でしか育たない、大変デリケートな植物だからです。

わさびが自生しているのは水温が比較的低い清らかな水が流れる山間の渓流地です。それも北向きで一年を通じて気候の大きな変化の無い安定した環境という条件も付き、立派なわさびに育つには2~3年かかります。このように栽培条件が制限され、収穫までに長い年月がかかるスパイスです。

わさびには、本わさび、水わさび、畑わさび、西洋わさび、わさび大根・・・・といろいろな呼び名がありますが、それぞれ何が違うのでしょうか?

日本でわさびとして使われている植物は大きく2種類あります。ひとつは、古くから日本に自生するわさびです。もうひとつのものと区別して本わさびと呼ばれます。本わさびといえば水耕栽培というイメージがありますが、実は土耕栽培でも育てることが可能です。

水耕栽培で育てられたものを水わさび、土耕栽培で育てたものを畑わさび、と栽培方法による違いで呼び分けられることもあります。

もうひとつは、ローストビーフやステーキ、肉料理のソース作りなどに利用されるホースラディッシュと呼ばれるスパイスです。 ホースラディッシュは、日本にはアメリカから伝わり、北海道で栽培され現在でも川沿いの湿地などに自生しています。本わさびと区別して西洋わさびやわさび大根などと呼ばれ、粉わさび、ねりわさびの原料としても使われています。

わさびのどこを食べる?

寿司などに使われているおろしわさびは、ごつごつした円柱形の根茎の部分をすりおろしたものです。この根茎から上に見ていくと、葉柄という葉を支えている部分が伸び、その先にハート形の大きな葉が付いています。葉柄ととともに花茎が上に伸びその先に、冬から初夏にかけ小さな十字状の白い花を咲かせます。その可憐な色形から、刺激のある辛さを想像できません。

おろしわさびは根茎をすりおろして食べますが、日本では茎や葉、花も料理して食べます。葉や茎は日本ではおなじみのわさび漬けによく使われますし、刻んで和え物やスープのトッピングに使われます。

日本人とわさび

日本人はわさびを昔から料理を中心に、生活の様々な場面に取り入れ、独自のわさび文化を育ててきました。ここでは日本料理とわさびの関係を中心にわさびの歴史をご紹介します。

10世紀 記録に残る最古のわさび

日本における一番古いわさびの記録は、西暦900年代に遡ることができます。918年に記された薬草事典「本草和名」で、今も使われている漢字の“山葵”を見ることが出来ます。

同時代の、日本で最も古い律令集(古代国家の基本法を記した書物)「延喜式」(927年)でも、わさびが各地から中央政府への貢物(税)として献上されていたと記されています。食用の他、薬用として用いられていたと思われます。

11世紀~15世紀 本格的な食用に

中世になると、寺院を中心に発達した精進料理にわさびを使った料理が書物に登場します。鎌倉時代(1185年頃~1333年)には精進料理の冷たい汁の実として使われていました。この料理は次第に民間にも広がりました。
さらに室町時代(1338年~1573年)に入るとわさびの使用場面は広がり、現在でもよく食べられる鯉の刺身に、わさび酢を添えたとの記録が残っています。

16世紀~19世紀 本格的な栽培へ

それまでは山間部に自生していたわさびを利用していましたが、安土桃山時代(1573年~1603年)末期から栽培が始まりました。日本の中部、静岡県に流れる川の上流に自生していたわさびを地元の村人が採ってきてわさび栽培を始めました。

このわさびは江戸幕府(1603年~1868年)を開き、その頃は近くで隠居をしていた徳川家康のもとに献上されました。家康はわさびの魅力に取りつかれ、わさびを他で売ってはいけない品に指定したと言われています。わさびの葉が、徳川家の家紋である三つ葉葵の葵に似ていたからという説もあります。

そして1774年には幕府の直轄地である静岡県・伊豆天城で本格的な栽培が始まりました。現在でも伊豆天城はわさびの一大生産地です。

わさびの辛さの正体は?

舌で感じるヒリヒリ、ピリッとした唐辛子やこしょうを食べた時に感じる辛さとは異なり、わさびは鼻に抜けるツーンとした辛さが特徴です。

これはわさびの辛み成分がアリル芥子油と呼ばれる揮発性成分によるものですが、この辛み成分はわさびをすりおろすなどして細胞が壊されたときに、細胞中の辛みの元(シニグリン)に水と酵素(ミロシナーゼ)が作用して生み出されます。よくわさびはさめの皮のおろしなどを使います。これは、さめの皮のおろしを使うことで、酵素(ミロシナーゼ)が良く働き風味や辛みを多く出すことができるからです。 わさびの辛さは揮発性が高いため、しばらく置いておくと辛さが弱くなり、香りも変わっていきます。

からし配糖体シニグリン 水 酵素ミロシナーゼ アリルからし油など

わさびの機能性

わさび特有の辛さ、香りは大きな魅力で、食欲を増進させてくれる食品の一つです。それだけでもわさびの健康効果なのですが、わさびには他にも色んな健康効果があることが研究でわかってきました。

湿布として

日本では昔から、わさびを食用としてだけでなく、民間療法にも使ってきました。たとえばリューマチや神経痛、気管支炎などには、わさびを塗った布を患部にあてる湿布薬として使ってきました。わさびの辛さ成分を活用したわさびの活用法です。

制菌作用

日本人は昔から、わさびを刺身や寿司など、生に近い魚介類とともにわさびを用いてきました。それは鮮魚特有の生臭さを消し、淡白な味わいにアクセントを付けてくれる効果とともに、食あたりを予防する働きを期待していたと思われます。

最近の研究で、わさびには大腸菌などの細菌やかび、さらには寄生虫の増殖阻止作用、すなわち制菌作用が備わっていることが明らかになっています。
最近ではこのわさびの制菌作用を利用した製品も開発されています。わさび成分をフィルム状に加工したわさびシートは、お弁当箱のふたの裏に挟んでおくことで食べ物の腐敗防止効果が期待されます。

エスビー食品のこだわり

エスビー食品では、日本で発達したわさび文化の現代の後継者として、わさびの品種開発に取り組んでいます。日本中の様々なわさびの種子を集め、加工用に適したわさびの品種を開発してきました。

その研究開発を行っているのが、日本の名峰として世界に知られている富士山をのぞむ、忍野村にある忍野試験農場です。忍野村は富士山の雪解け水と言われる清水が湧き出る冷涼な地域で、わさびの栽培には大変適しています。エスビー食品の開発チームはこの雪解け水を利用し、何年もかけてわさびの新しい品種を開発しています。