
お店の看板メニュー
すじカレー丼
豆板醤やキムチの素をきかせたピリ辛醤油ベースに、じっくりと煮込んだ牛すじの旨みが溶け込んだ和風カレー。すき焼きの割下をベースにした甘辛い味わいは、ご飯と相性抜群。噛むほどに甘さとコクが広がる、すじ肉のピリッとした辛さがクセになる一品。
甘辛く味付けた牛肉と、
丁寧に煮込んだ
とろける
牛すじがたっぷり。
長年愛される
すじカレーの味を受け継ぐべく、
父の元で修行中です

店主 / 若谷亜依 さん
お食事処やまびこの監修で生まれた
レトルト商品
とろとろ
牛すじカレー
本みりんと醤油のコクのある甘さに、赤唐辛子の刺激とこだわり出汁のクセになる旨みを楽しむ一皿。

常連客とともに
育んできた、
唯一無二のすじカレーの味

お食事処やまびこは、昭和26年に曾祖母が始めた町の食堂がルーツです。今は四代目の私が店に立ち、代替わりの真っ最中。看板メニューのすじカレー丼は、三代目である父が手がけたひと皿です。もともとお店を継ぐまでは、日本料理や鮨屋での修行経験を生かして和食のメニューに変えていくつもりだったようですが、結果的にすじカレーうどんと、すじカレー丼が看板メニューになりました。
すじカレーのきっかけになったのは、父が古い友人のお店で食べたすじ煮込み。その味に感動して、自分なりにピリ辛の醤油ベースで煮込んでカレーと合わせてみたら、びっくりするほどおいしかったそうです。それを日替わりメニューで出してみたら、常連さんからも大好評で。あっという間に定番になりましたが、少しずつ味を整えて、やっとレシピが固まるまでに5年。お客さまからも意見をもらい、おいしさを追求してきたので、まさに常連さんと一緒に育ててきた味なんです。

こだわりは、なんといってもすじ。すじは精肉の副産物なので、通常の仕入れでは手に入りにくい部位です。父が昔からお肉屋さんに頼み込み、今は信頼できる2社から毎週仕入れています。
そうして仕入れたすじは、丁寧な下処理が肝心。まず、2回湯通ししてアクを取り、臭みを抜きます。それからひとくち大に切ったすじ肉をトロ火〜中火で1時間半から2時間ほど煮込みます。そのあと、丸一日寝かせるのもポイント。常温まで冷める過程で、しっかりと味が染み込むんです。時間はかかりますが、この方法でないとうちのすじカレーの味は作れません。

味付けの決め手は、豆板醤とキムチの素。それに醤油、酒、砂糖を加え、噛むほどに甘みと旨みが広がる、奥深い甘辛味に仕上げています。丼はうどんより少し濃いめの味で、すき焼きの割下をベースにしているのでコクと深みがあり、ご飯との相性も抜群。すじの柔らかさ、甘さ、ピリッとした辛さが混ざり合う、唯一無二の味です。
お食事処やまびこの監修で生まれた
レトルト商品
とろとろ
牛すじカレー

諦めていたレトルト化。
納得の一杯ができるまで

実は、これまでも過去に5〜6社とやり取りして、自社でもレトルトの商品化を試みた経験がありました。でも、なかなか納得のいく味にはならず、どんなに頑張っても7割の再現が限界で。最終的には製造コストの問題で諦めてしまいました。
そういった背景もあり、最初に「噂の名店シリーズでレトルトを出しませんか?」というお話をいただいたときは、「また同じだろう」という気持ちでした。それでも、「1回サンプルを作らせてください」と言っていただいて。正直半信半疑でしたが、2週間後に届いたサンプルを食べてみてびっくり。「うわ、もう7割くらいうちの味に近い!」と父も驚いていました。今回はいけるかもしれない、と思い、挑戦することに。微調整を重ね、最終的には納得の味に仕上がりました。
譲れなかったポイントは、やはりすじの仕上がり。普通の工場ではコストを抑えるために、カレーとすじを一緒に炊いてしまうのですが、それだとどうしても臭みが残ったままになってしまう。それをしっかり理解したうえで、すじのおいしさをしっかり出せるように工程を考えてくれたのがうれしかったですね。時間も手間も惜しまないからこそ出せる、お店の味が実現したと思います。
手間ひまをかける想い。
父から娘へ渡す、
味のバトン

3代目店主の山本裕司さん(右)と、4代目で娘の若谷亜依さん(左)
すじカレー丼と並んでうちの名物メニューなのが、すじカレーうどんです。どちらにもファンがいて、丼派とうどん派に分かれるみたいで。常連さんのなかには、すじカレー丼のルウをうどんにかけたいという声もあり、そうした意見も参考にしています。今回のレトルト商品も、うどんに絡める食べ方はおすすめです。温泉卵を落としたり、粉チーズを振ったり。ちょっとアレンジするだけで、また違ったおいしさが広がります。
また、変わらない味を守りながらも、少しずつ進化もしています。たとえばこの冬には、京都の酒蔵の酒かすを使った、酒かす入りすじカレーうどんを本格的に始めます。出汁で溶いた酒かすを仕上げにかけて食べるスタイルで、粕汁とカレーが合わさったような深い味わいが楽しめます。食べるとじんわり体が温まって、ほっとする。寒い季節にぴったりの一杯になりました。

四代目としてまだまだ勉強中の私ですが、父から受け継いだ味と向き合いながら、これからも一歩ずつ大切にこの味を育てていきたいと思っています。うどんにはお出汁を使用しますが、父からは「出汁の甘さが一番難しい」とよく言われます。たしかに、お出汁の味が毎回少しずつ違うと、全部の味に影響が出てしまう。季節や素材によっても変わるし、その“加減”を自分の舌でつかんでいくのが、今の課題です。
手間ひまを惜しまないこと、お客さまの声に耳を傾けること。そして、どんな時代でも「また食べたい」と思ってもらえる味を目指して。これからも私たち家族の手で、少しずつ進化を続けていきたいと思っています。
写真:井上綾
取材執筆:高野瞳
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