クリエイティブな発想でネガティブをポジティブに。
八百屋から学ぶ、クラフトの精神。



活動開始から10年。“旅する八百屋”が、拠点を持つこと

活動をスタートして10年となる節目に、横浜市青葉区にオープンした「micotoya house」。野菜が並ぶほか「KIKI NATURAL ICE CREAM」の製造・販売も。
2021年4月にお店をオープンされましたが、実店舗を構えるきっかけはあったのでしょうか?

「青果ミコト屋」さんは“旅する八百屋”をコンセプトに掲げていますが、やはり「旅」は重要なキーワードですか?
農家さんに会ったら、お客さんから届いた感想も伝えます。「おいしかったよ」はもちろん、「去年より甘くなかった」「すじっぽかった」など、時にネガティブな感想も。おいしいという感想は励みになるだろうし、おいしくなくても、それは課題になる。そうすることで、自分たちが作った野菜を食べる人がいることをリアルに感じられ、農家さんにとってのやりがいにもつながると思うんです。


鈴木さんが八百屋を始めたきっかけを教えてください。
流通している野菜というのは、厳しい規格を通ったものです。消費者は、色やかたち、大きさの揃ったきれいな野菜を選ぶので、そのために厳しい規格があります。かたちの悪い野菜には、厳しい値段がつくのが現実です。だから、農薬を使って安定したきれいな野菜を作ります。
だけど、たとえかたちの悪いものでも、丁寧に育てられている。そういった野菜がきちんと評価されないこと自体に問題があるのを感じました。一生懸命こだわって作っても適正に判断されなければ、作り手もいい加減になってしまいますよね。
いろんな規格の野菜があって、ひとつひとつに個性がある。そこには生産者それぞれの想いやこだわりもある。僕が八百屋になろうと思ったのは、みんな違って、それが自然ということを伝えられる八百屋が必要だと感じたからです。

木箱に並べられる色とりどりの野菜。自分で野菜の重さをはかって購入するスタイル。
野菜に触れると、フードロスが減る?

買った野菜はこちらで梱包。看板のイラストは、手描きのアーティスト、チョークボーイ率いる「WHW!」によるもの。
店頭での野菜の買い方が、ユニークな形ですね。
今回の『S&B CRAFT&STYLE』のキットも工程がいくつかありますが、ステップを踏めば踏むほど愛着がわく。冷蔵庫で野菜をダメにしちゃう話はよくありますが、家庭内のフードロスも野菜と関わるほど、自然と減っていくと僕は思います。
野菜をはかるって意外とおもしろいんですよ。普段、野菜の重みなんて意識しないですよね。でもはかってみると「これ1個こんなに重いんだ」という気づきがあるはず。それぞれの重みがあって、詰まっていて「野菜も命なんだな」という意識が生まれます。

実は、おいしい廃棄部分。「青果ミコト屋」さんがアレンジしたカレー
今回、『S&B CRAFT STYLE ケララカレー』を使って、「青果ミコト屋」さんオリジナルのカレーを作っていただきました。カレーには何が入っていますか?

僕はブロスを作るときに、1時間弱火でゆらゆら煮込みますが、えぐみが出ることもあるので、煮出す時間はお好みで。そもそも、えぐみというのは、過剰な肥料分の味だったりするのですが、僕たちの野菜はそんなにえぐみが出ないんです。強火でぐつぐつと煮立たせるというよりは、ゆらゆらと長く。生産者が丹精込めて作ってくれた野菜だから、すべて味わい尽くしてやろうという気持ちで煮込みます(笑)。
今回は、冬に旬を迎えるカブもすりおろして入れています。カブはすりおろすと甘くなるんです。もちろん焼いて入れてもおいしいですよ。

カレーの副菜も一緒に作ってきてくれた「青果ミコト屋」さん。カレーのレシピと一緒に「キャロットラペ」と「高菜炒め」の作り方も、記事の最後で紹介。
冬の寒さで甘くなる。生命力が宿る野菜。

冬が旬の野菜に、特徴はありますか?
野菜の旬を味わいたいのですが、旬を捉えるってなかなか難しいですよね。

この日は店頭で焼き芋を販売。「もし余っても冷凍してそのまま焼き芋アイスにできるんです」と鈴木さん。
ただ、今の時代は全国から野菜が集まるので、旬の判断が難しくなってきています。僕たちのお店でも、鹿児島のズッキーニは名残りだけど、青森でははしりということがあるので、自分が住んでいる土地のリズムを知っておくと指針になり、よいかもしれません。
ポップな見た目だけじゃない。懐も深いアイスクリーム

フレーバーは、全部で160種類ほどのバリエーション。ケースには、その日の味が10種類ほど並ぶ。
「青果ミコト屋」さんは八百屋ですが、「micotoya house」では「KIKI NATURAL ICE CREAM」の製造販売もしていますよね。アイスクリームを作るきっかけは?
そこで、売れ残りをどうするか考えたときに、出てきたアイデアでした。まず、アイスクリームって賞味期限の表示義務がないんです。だからシンプルに、野菜の賞味期限を伸ばすことができる。冷凍だから輸送にも耐えられます。それと、僕たちは自然栽培のことやフードロスについても取り組んでいますが、真正面から伝えると少し説教じみちゃうんですよね。そこにきて、アイスクリームは、見た目が可愛いくてカジュアルだし、楽しい。畑で廃棄されちゃう野菜や果物も、アイスクリームというポップでカジュアルなものにメッセージをのせれば、構えずに受け入れてもらえますよね。
単純に「もったいないよね!」という話ではなく、間引きのにんじんを使ったものなどを食べて「にんじんってこうやって間引かれているんだな」など、アイスクリームを通じて、畑や野菜のこと、廃棄の実情や、食に関する知識や背景を知ってもらえるんじゃないかと。

自宅でも作れるアイスクリームのアレンジレシピも教えてもらいました。ミルクのアイスクリームに、ローズマリー(ホール)、バニラビーンズ、ローレル、コリアンダーシードをテンパリングしたオリーブオイルをかけて。レシピは記事の最後で紹介。
間引きにんじんのアイスクリームや、今日だとクラフトビールの麦芽の搾りかすを使ったフレーバーなど、素材の組み合わせがユニークな印象ですよね。
荷物の事故は、ネガティブなことだったかもしれないけど、結果おいしいアイスクリームができあがって、友人、運送会社、僕たちの三方にとって嬉しいできごとになりました。まさに、“Win-Win-Win”って感じですね(笑)。とにかくアイスってなんでも受け止めてくれるんですよ。事故とか、規格外、不揃いといった一見ネガティブなことを、アイスがポジティブに変換してくれる。僕たちのアイスクリームは、受け皿になることで生まれているんです。
柔軟でいることが強さになる。クラフトとは、“フレシキブル”でいること。

「ネガティブなことをポジティブに変換する」とは、とてもクリエイティブですね。その柔軟な発想は、どこから生まれるのでしょう?
野菜もそうですよね。同じ人が同じ場所で作ったにんじんでも、年によって味わいは繊細に変わります。その違いを楽しむ許容をもって、食べたほうが楽しいと思うんです。食べるほうも、作るほうも素材に対してアジャストできるかということこそが、まさにクラフトの精神ですよね。どんな出来事にも対応できる強さを持つ。でもこれって人生も一緒だと思います。
世の中に安定なんてないからこそ、僕たちは不安定に強くならなきゃいけない。でも、フレキシブルでいられると、意外とどんな状況でもちゃんと生き抜いていけると思うんです。新型コロナウイルスで世の中は一変したし、これからだってなにがあるか分からない。自分たちが免疫力をあげて根本的に強くなるなど、フレキシブルに対応する器を持つほうが大事なんじゃないかと。そういった意味でも、なんでも柔軟に自分たちで作る“クラフト”の考え方っていいですよね。
ベジブロスとカブのケララカレーの作り方
- 鶏肉(骨付き)
- 10本(500g)
- 玉ねぎ(みじん切り)
- 中1個(200g)
- にんにく(みじん切り)
- 1かけ(10g)
- セロリ(みじん切り)
- 1本(65g)
- りんご(みじん切り)
- 1/3個(100g)
- にんじん(すりおろし)
- 中1/2本(100g)
- しょうが(すりおろし)
- 1かけ(10g)
- サラダ油
- 大さじ3
- ベジブロス
- 750ml(3 3/4カップ)
- カブ(すりおろし)
- 1個(100g)
- 1ベジブロスを作る。野菜をカットし、その野菜のヘタや皮、葉を鍋にいれる。 中の具がかくれるまで水を入れ、30分ほど弱火で煮込む。
- 2フライパンにサラダ油大さじ1を入れて熱し、鶏肉に焦げ目がつくまで強火で約3分焼いて取り出す。
- 3冷えた状態のフライパンにサラダ油大さじ2とテンパリングスパイスを入れ、香りが出るまで中火で約1分〜1分30秒炒め、しょうが、にんにくを加えて強火でさらに約1分炒める。
- 4③に玉ねぎ、セロリ、りんごを加えてきつね色になるまで炒め(中火約3分→弱火約15分)、にんじん、カブのすりおろし、炒めスパイスを加えてさらに炒める(強火約1分→弱火約5分)。
- 5鍋に②と④、ベジブロス750mlを入れ、中火で約20分煮込む。いったん火を止め、カレーベースを加えてよく溶かし、弱火でとろみがつくまで煮込む。
- 6仕上げに辛味スパイス、香りスパイスを加え、ひと煮立ちさせる。
〈副菜〉キャロットラペの作り方
- 1にんじんの皮をむいて、千切りにする。
- 2塩をひとつまみ入れて、しっかりと混ぜ合わせる。
- 3②を20分程おいたら、白ワインビネガーとオリーブオイルを加える。
- 4フライパンで油を温めて、クミンシードを入れる。香りが出たら火を止める。
- 5③に④を回しかけて、ブラックペッパーと和えて完成。
〈副菜〉高菜のスパイス炒めの作り方
- 1高菜を適当な大きさに切る。
- 2フライパンに米油と、コリアンダーシードを入れて香りが出るまで加熱する。
- 3②に高菜を加えて、ターメリックとナンプラーで味をととのえて、30秒ほど炒めたら完成。
ハーブオイルのアイスクリームの作り方
- 市販のアイスクリーム(バニラやミルク味)
- 1個
- オリーブオイル
- 大さじ1 1/2
- S&B コリアンダーシード
- 1つまみ
- S&B ローズマリー(ホール)
- 少量(香りが強いのでほんの少し)
- S&B バニラビーンズ
- 1/5房
- 1冷えた状態のフライパンにオリーブオイルとコリアンダーシードを入れて弱火で熱し、コリアンダーシードからふつふつと泡が出てきたらローレル、ローズマリーを加える。
- 2香りが出るまで軽く熱したら、フライパンから耐熱容器などに移して粗熱をとる。
- 3香りがオリーブオイルに移るまで1時間ほどおき、ザルで濾す。
- 4バニラビーンズは包丁で縦に切れ目を入れて開き、中身を取り出して③に加え、アイスクリームにたらして完成。

お話を聞いた人
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「青果ミコト屋」 代表
鈴木鉄平さん1979年生まれ。3歳までをロシアで過ごし、帰国後横浜で育つ。幼少期より頭の中は食べることばっかりで、学生時代は一日5食。根っからの旅好きで、高校卒業後アメリカ西南部を一年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。2007年 ヒマラヤで触れたグルン族のプリミティブな暮らしの豊かさに惹かれ、農のフィールドへ。2008年、千葉の自然栽培農家である高橋博氏、寺井三郎氏に師事し畑仕事を学び、翌年、Brown’sFieldの田んぼと畑スタッフとして一年間自給的な暮らしを経験。2010年に高校の同級生、山代徹と共に旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げる。2021年 地元である横浜市青葉区に八百屋の実店舗と 「KIKI NATURAL ICECREAM」を併設した「micotoya house」をオープン。
旅する八百屋 青果ミコト屋
- Photo: Ryo Tsuchida

お話に登場したカレー

お話に登場したお店

神奈川県横浜市青葉区梅が丘7-8
045-507-3504
平日 11:00~17:00
土日祝日 10:00~18:00
木曜定休