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マスタード/からし

イギリスが製品化に成功した、世界の調味料。

科名
アブラナ科
原産地
黒芥子(中近東)。和芥子(インド、中国、ヨーロッパ)。白芥子(地中海沿岸)
利用部位
種子
別名
芥子(からし)、黒芥子(ブラックマスタード)、和芥子(オリエンタルマスタード、ブラウンマスタード)、白芥子(イエローマスタード)

特徴

こんなスパイス&ハーブです。

日本名はからし。和風からしは、おでん、カツ料理、納豆に。洋風料理では肉料理、ホットドッグ、サンドイッチなど幅広い用途があります。種類や商業上の名前が交錯しさまざまな呼び方や分類があります。辛さが抑えめで食べる感覚のからしを特にマスタードと言って区別することもあります。

語源、別名

からしを大別すると3品種があります。しかし植物分類学上、商取引上、産地国、栽培の歴史的背景などにより名称がちがい、それぞれが交錯して使われてきたため、かなり混乱しています。和名では、和がらし、黒からし、白からしの3種類に呼び分けるのが最も適切です。<br>芥子の英語名マスタードの語源は、ラテン語のムスツム・アルデンス(Mustum ardens=燃えさかる新ぶどう汁のこと)に由来すると言われています。芥子の種子をすりつぶし、これに発酵中または発酵前の新ぶどう汁か酢を加えて練りあげた洋風練芥子、すなわちフレンチマスタードの名がそのまま植物名としても使われるようになったのです。

形状

からしに含まれる辛味成分は、3品種ともその種子や粉末の状態においては、糖類と結合した配糖体の形で存在しています。そのため、他の大部分のスパイスと違って、乾燥状態にある限り、芳香も辛味もほとんど感じられません。しかも、辛味と芳香は同一成分から発揮されます。<br>黒からしと和がらしの辛味の母体成分はシニグリンといい、白からしのそれはシナルビンと呼ばれる配糖体ですが、いずれも芳香も辛味も感じられません。これらの母体成分を含んでいるからし粉に、水または温湯を加えて練りあげると、粉の中に共存しているミロシンまたはミロシナーゼという酵素が働き、母体成分が加水分解されて、それぞれアリール芥子油、パラハイドロオキシベンジル芥子油という精油を生じます。こうしてはじめて、芥子特有の辛味が感じられるのです。従って、練った後しばらく時間(数分間)をおき、その反応が完了し、充分辛味が生じてから使用するよう心掛ける必要があります。しかし、反対にあまり時間が経過しすぎると、揮発性のある芥子油は、揮散消失するため、必要な量だけ粉から練って、料理に芥子の辛味と香りを生かすのが、上手な使い方です。最近は、その酵素活性を抑えるため、食塩と食酢を加えると同時に、含有する油分を適量に調節して特殊混合装置にかけ辛味成分をその油分で保護することで、長期間辛味を保ち続けるチューブ容器の練りからしが市販されていて、大変便利になっています。

用途

適した料理

おでん、カツ料理、納豆、しゅうまい、からしれんこん、肉料理、卵料理など

辛味の強い和風からしは、おでん、カツ料理、納豆、しゅうまい、サラダなど、家庭料理一般に広く用います。からしれんこんは熊本の郷土料理としてよく知られていますが、ほかに芥子和(あ)え、芥子漬などにも用いられます。洋風料理でも、マヨネーズ、各種ソース、肉料理、ホットドッグ、サンドイッチ、ピクルス、チーズ、卵料理など幅広い用途があります。<br>日本でも市販されている粒マスタードは、欧米で広く知られ、中でも手造りハム・ソーセージの本場ドイツではよく使われています。これは、黒がらしを種皮ごと半つぶしにし、加熱して辛味を抑え、酸味をつけた泥状マスタードで、ハム・ ソーセージのほか、サラダやローストビーフなどにもよく合う調味料です。

エピソード

最初は薬用、そして料理のスパイスとして

紀元前に活躍したギリシャ人数学者のピタゴラスが「芥子の価値と性質」という論文を発表しているほど、マスタードは古くから知られています。しかし、ヨーロッパでは中世までの長い間、塗り薬、湿布、催吐剤など、主に薬として利用されていました。現在でも、リウマチ、神経痛、肺炎の炎症に湿布剤として用られるほか、浴剤としても使われています。種子に多量の油分を含んでいるため、粉末にするのが難しかった芥子種(だね)を、圧搾乾燥する方法で粉芥子にしたのは17世紀のフランスでした。その後、蜂蜜や酢などを加えて球形に固めたものや、練状の芥子も作られ、次第にスパイス用の商品として売られるようになっていきます。

イギリス生まれの近代的マスタード

一方イギリスでは、シェークスピア(1564〜1616年)の「夏の夜の夢」のワンシーンに、芥子の種に扮した妖精が登場しています。1720年には、北部の町ダーラムに住むクレメンツ夫人が、小麦粉の製粉法を応用して、きめ細かいきれいな淡黄色の芥子粉の製法を開発しました。この芥子粉は「ダーラム・マスタード」と呼ばれ、やがて王室にも認められ、一躍芥子界の寵児となったと伝えられています。そして19世紀中頃には、東部の町ノーリッジで、エレミア・コールマンが現代イギリス風のマスタードを完成、製造を開始しました。白からしの粉から調製される「コールマン・マスタード」は、マイルドな風味とほどよい酸味、滑らかな舌ざわりが受け入れられ、イギリス・マスタードの代名詞となっているばかりか、世界の調味料としての地位を確立しています。

愛のない物語は、マスタードのない牛肉と同じ

いったん食用として供されるようになるとマスタードは人気を呼び、作家アナトール・フランスは「天使の反乱(1914年刊)」のなかで、「愛のない物語は、芥子のついていない牛肉のようなもの、無味乾燥な料理である」と、とりわけ牛肉とマスタードの深い関係を記しています。また新大陸アメリカに移民した開拓団が、ナイヤガラを渡って現在のカナダに入った時、先発隊を務めた宣教師が、マスタードの種をまき、その花を道しるべにしていました。そのおかげか、今ではアメリカ、カナダが、マスタードの大産出圏になっているというのも興味深い話です。

租税として、供養料として献上されていた和芥子

鼻を刺激する独特の辛さに特徴がある和がらし(芥子菜)は、日本でも古くから栽培されていたようですが、元をたどれば中国から渡来したものと思われます。平安初期の宮中の年中儀式や制度などを記録した「延喜式」の中に、租税作物の一つとして芥子の名を見ることができます。この芥子を納付するよう決められていたのが、甲斐(山梨県)、上総(かずさ)(千葉県中央部)、下野(しもつけ)(栃木県)、信濃(長野県)の4カ国であったことから、この地方の特産品であったものと思われます。また、天皇の食事を扱った「供御(ぐご)月料」の項にも、食料の一つとして芥子が記録されていることから、すでに調味料、薬味として使用されていたことがわかります。また租税以外でも、僧侶の供養料として使われたり、病気の治癒や戦乱の平治などを祈願する際、芥子を7回火中に投じる護摩焚(ごまた)きの修法を芥子焼(けしやき)といっていることから、神仏宗教にも深く関わっていたようです。

鰹の刺身には芥子醤油

江戸時代には、八丈島へ島流しされた人の句に、「初かつお、からしがなくて、涙かな」というのがあり、鰹の刺身には山葵ではなくて、芥子醤油が選ばれていたようです。

マスタード/からしを使ったレシピ

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