町中華とは、愛され続ける古き良き昭和の味わい

古くから地域に愛され続ける、中華料理中心の大衆食堂。それらを総称して「町中華」と呼ぶ。本格的な中華ではなく、千円以下で満腹になれるボリューム満点のラーメンやチャーハン、餃子。店によっては丼もの、洋食なども。扱うメニューは店主の裁量に委ねられる。そのゆるさもまた、町中華が愛される理由のひとつである。

ニラ玉の素の老舗「中華シブヤ」

ニラ玉の素の老舗「中華シブヤ」店内

東京 八丁堀の名店

創業以来60年間、多くの人に愛され続けた名店。
たっぷりと使われたシャキシャキのニラを、ふわりと包む薄焼き卵。看板メニューであったニラ玉は、いまだにあの味が忘れられないファンも多い、伝説のメニューである。

ニラ玉の名店「中華シブヤ」のご主人

ニラ玉の名店「中華シブヤ」のご主人に町中華 ニラ玉の素を試してもらいました!

ニラ玉の名店「中華シブヤ」のご主人に町中華 ニラ玉の素を試してもらいました!

「中華シブヤ」の外観

みなさん、「ニラ玉」と聞いて、どんな料理を想像しますか? ニラとお肉と卵を一緒に炒めるものを想像しませんか? 僕はそうでした。しかし、「中華シブヤ」のニラ玉は少し変わっています。肉とニラを炒めたものに布団をかけるように焼いた卵がかぶせてあるのです。

「中華シブヤ」のニラ玉の素

なぜこんなスタイルになったのかは、あとでお伝えします。その前にみなさんにお伝えしなければならないのですが、この「中華シブヤ」という町中華、今はもうないのです。

「中華シブヤ」の外観

この絵は「中華シブヤ」が閉店する少し前に常連のお客さんが描かれたそうです。
お店はご夫婦で営業されていました。最後の日は常連客から花をもらったというご夫婦の写真が残っています。それがこちら。

「中華シブヤ」ご夫婦

左がご主人の渋谷吉章(しぶや・よしあき)さん、右が奥様のタカ子さん。

タカ子さん:閉店までの1週間くらい、いただいたお花でテーブルがいっぱいになっていたんですよ。

この話を聞くだけで、中華シブヤがいかに人々に愛されていたかわかりますね。

築地市場の豊洲移転で閉店を決意

ご夫婦が住むお宅にうかがってお話を聞きました。
とてもお元気そうなおふたりです。2018年にお店を閉められたのですが、どんな理由からでしょう。

「中華シブヤ」ご夫婦

吉章さん:築地市場が豊洲に移転したことですね。ニラ玉のニラを仕入れるために毎朝、築地まで通っていました。それが豊洲に移転してしまってちょっと遠くなって、時間がかかるわけですよ。そうすると店の仕込みに間に合いませんからね。あとは年齢的なことですかね。いいきっかけだからと店を閉じたのです。

中華シブヤの創業はいつ頃でしょうか?

吉章さん:戦後ですね。父親が戦地から帰ってきて甘味喫茶を始めたんです。夏はかき氷、冬はぜんざいを出すようなお店です。ここに高校を卒業した18歳のときに入りました。

当時、ラーメンも出してらっしゃったんじゃないですか?

吉章さん:そうです、出してました。それから、チャーハン、カレーライスなんかもやってましたね。

タカ子さん:私が嫁いできたのが昭和45年でしたが、その当時はまだラーメンを出しながら、かき氷も出していましたよ。

中華シブヤ

吉章さん:当時はまだ冷房なんてなくてね、天井に飛行機のプロペラみたいな大きな扇風機がありましたよ。

そのころニラ玉は出していらっしゃったんですか?

吉章さん:いや、ニラ玉はもっと後ですね。

中華鍋をよく温める

タカ子さん:ニラ玉のアイディアが生まれたきっかけは家族でイタリアンのお店に食事に行ったときです。卵じゃなかったんですけど、なにかフワッとしたもので包まれていて、その中から料理が出てきたんですね、それにビックリして。あと、日本でもお魚を塩で包んで焼くという料理がありますよね、それで、中に何が入っているかわからないビックリ感が楽しめる料理をやりたいと思って考えたんです。

なるほど、だからニラと卵を一緒に炒めるニラ玉ではなく、上からかぶせるスタイルになったんですね。

吉章さん:パフォーマンスなんだね。もちろん味は試行錯誤しましたよ。オイスターソースや醤油で味を整えていきました。

それはいつ頃のことでしょうか?

タカ子さん:そうですね、平成8年か9年頃でしたね。すぐに人気メニューになりました。

吉章さん:テレビのコマーシャルなんかよりも、なによりも優れていると思えるのは口コミですね。『アレ、旨いよ』と言ってもらえると、広がっていくんですね。

ご店主直伝!家庭でできるニラ玉の素のコツ

ニラ玉の素(2人前)の材料

※ニラ玉の素:取材当時のパッケージです。

ニラ玉2人分の材料です。

ニラ玉2人分の材料です。
町中華 ニラ玉の素 1回分
豚バラ肉 100g
ニラ 1束
卵 2個
サラダ油 大さじ2

それではつくっていきましょう。

炒め具合が仕上がりの鍵

中華シブヤ

まず、ニラを3センチの長さに切ります。根元の部分だけは1センチほどに切ります。
ちなみにキッチンは家庭用のIH。つくっていただくのは、タカ子さんです。

中華シブヤ

次に、3cmに切った豚バラ肉を炒めます。
お肉に火が通る寸前ぐらいに、先ほど1cmほどに短めに切った根元のニラを投入します。

中華シブヤ

よく炒めます。
お肉に火が通ったくらいで、残りのニラを投入。ニラってついつい炒め過ぎちゃうんですけど、いいタイミングの見極めってあるのでしょうか?

吉章さん:ちょっと色が濃くなるんですよ、ニラの。そうすればもういいですね。

秘訣その1

ニラの炒め具合は色で見極める!
炒め過ぎに注意。

中華シブヤ

ここでいったん火を止めて、町中華シリーズニラ玉の素を入れます。

中華シブヤ

ニラ玉の素を入れたら再び火をつけて混ぜ合わせたら出来上がり。

タカ子さん:これで、お皿に盛りつけます。

中華シブヤ

お店のお皿ですね。これは貴重。
ここで、タカ子さん、先ほど使ったフライパンを洗っています。

ふわふわ卵のコツ

中華シブヤ

卵は軽くといておきます。

吉章さん:溶きすぎるとオムライスになっちゃいますから、白身が少し残っているくらいがいいですね。

タカ子さん、フライパンに火を入れて、サラダ油を入れています。

吉章さん:サラダ油を少し多めに入れるとふんわり仕上がりますよ。

中華シブヤ

卵を投入してからはあっという間です。

中華シブヤ

菜箸でゆっくりとのの字をかく感じで卵をまとめると出来上がりです。

吉章さん:卵をひっくり返しちゃう人が多いんですけど、ひっくり返さないほうがいいんです。

中華シブヤ

肉やニラと卵をいっしょに炒めてしまうと簡単ですが、こうして卵だけ後からのせることで、おいしくなるのですね。

中華シブヤ

これで完成です。見た目も素敵ですね。

秘訣その1

卵は溶き過ぎず、白身を残す。
焼くときはサラダ油を多めにするとふんわり仕上がる。

ふわとろの半熟卵焼きをつくるコツを動画でもご紹介します!
箸さばきのスピードや焼き加減など、写真では伝わらない部分がわかるので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

出来上がりを確かめましょう!

それでは、ご主人に試食していただきましょうか。

吉章さん:ニラ玉はご飯に合うんですよ。

中華シブヤ

いかがでしょう、ご主人。

中華シブヤ

吉章さん:とってもおいしいです。100%再現できていますね。

奥さんいかがでしょう?

中華シブヤ

タカ子さん:そうですね、ニラとお肉と卵の味が合わせ調味料でよくまとまっていておいしいです。

こうすれば、さらにお店の味に近くなるという工夫はあります?

吉章さん:そうですね、使う油なんですが、サラダ油ではなくラードを使うともっとお店の味になると思います。

それでは、僕もいただいてみましょうか。これまで何度かつくりましたが、いつも酒の肴で、ご飯と一緒に食べるのは初めてです。

中華シブヤ

あー、ご飯と合いますね。

吉章さん:そうでしょ、ウチの店でもニラ玉丼にしてくれってお客さんがけっこういましたよ。

ご飯との相性はバツグンです。これは、ご飯が進みますねぇ。

タカ子さん:ニラ玉麺もよく出ましたね。ラーメンにニラ玉をのせているだけなんですけど。

へえ、それはおいしそうですね。

中華シブヤ

吉章さん:おいしいですよ、スープに旨みが出てね、バツグンにおいしくなるんですよ。

家庭ならインスタントラーメンをつくって、その上に乗っけるのがいいですね。醤油系でしょうか?

吉章さん:そうですね、醤油ラーメンにのせてましたね。

メニューにあったんですか?

吉章さん:いえ、これは裏メニューです。常連のお客さんにやってと言われて出してました。

なるほど、だから常連客に愛されるお店だったんですね。

吉章さん:大人の方は食べるときにラー油をかけてもいいですね。

どれどれ、ちょっとかけていただいてみましょう。

中華シブヤ

あー、ラー油合いますね。ラー油のピリ辛でさらにご飯がすすみますよ。

実は僕、中華シブヤの存在は知っていたのですが、行こうと思ったら、すでに閉店していたんですよ。閉店した店の人気メニューが味わえるなんて、すごいことですよね。
というわけで、今回の取材を踏まえて、もう一度ニラ玉をつくってみました。
ちょっとしたことですが、ご夫婦に教えていただいたポイントを気をつけてつくると、格段においしくなりました。
みなさんも、ぜひお試しあれ!

ライター/町中華探検隊 副隊長
下関マグロ(しものせき・まぐろ)

1958年、山口県下関市生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社勤務を経てフリーに。北尾トロ、竜超と共著で『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(角川文庫)。CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』にトロと出演中。

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