生江史信先生にインタビュー
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香りで料理はこんなにも変わる!
一流シェフが語る、香りとおいしさの関係

白い皿の上に、丁寧につくられたシェフの料理を見ると、それだけで幸せな気持ちになります。わくわくしながら料理を口に運んだ瞬間、おいしさが口いっぱいに広がり、忘れられない感動を経験されてくれるプロの料理。今回は自然の食材にこだわった「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ生江史伸さんに、料理の“香り”とおいしさの関係について伺いました。

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料理にとって“香り”は脇役でなく、ボス!

料理にとって“香り”は脇役のように思われがちですが、実はボスです。
鼻をつまんで食べたら味を感じませんよね。おいしく食べるには、香りがすごく重要なんです。料理を食べて「心が踊る」「満たされる」という感情は、香りからくるもの。確実に、脳を支配しているのは香りなんです。

“おいしい”と感じるために重要なのは、鼻先から嗅ぐ香りよりも、喉の奥から鼻に抜ける香りではないかと考えています。以前嗅いだものと同じ香りのものを食べたときに、その香りが喉の奥から上がってくると“おいしい”と感じる。味の記憶を呼び覚ますことが、おいしさにつながる重要な要因であることは間違いありません。

僕の料理は、誰かの記憶を呼び覚ますものをお皿に集めているつもりです。

料理にとって香りは脇役でなく、ボス

毎年、お店の夏のメニューに加わるのが、鮎です。鮎は別名、「香魚」とも呼ばれる香り高いお魚です。この一皿は、頭、骨付きの身、骨なしの身の三部作。“夏”を思い起こさせる香りのコンビネーションをつくりました。
頭は油でカリカリに揚げた後にナラの木で燻し、骨付きの身は、鮎のはらわたを塩漬けにしたものを塗って香ばしく焼いています。骨なしの身は、笹の葉で挟んで竹のせいろで蒸し、笹の香り、竹の香りをまとわせました。とうもろこしは少し焦がして添えてあります。
召し上がった方のなかには、川べりで鮎を焼き、その横ではとうもろこしも焼かれていた、そんな夏の記憶を思い出す方もいらっしゃるかもしれません。

「野草は食べにくい」は、間違い。
自然に生えているからこそ体に馴染みやすい

「レフェルヴェソンス」では時季の野草や山菜など、野の野菜をたくさん使っています。
それはお客様にも自然の香りや味を楽しんでいただきたいという気持ちから。野生のものはワイルドで食べづらい印象がありますけど、むしろ自然に生えているものだからこそ、体にすっと馴染むし、負担がありません。

例えば結実したばかりの若い山ザンショウの実は、柑橘系の香りがして、辛味もやわらかくてやさしい。先ほどの鮎の料理のソースには、その山ザンショウのオイルを使っていますが、その香りが心地よく、お皿を際立ててくれます。

このような野草にこだわるスタイルは、自然のなかから料理を生み出すフランス料理のシェフ、ミシェル・ブラスから学びました。実際に彼のお店では、料理人が自ら森や山に入り、行者ニンニクやカタクリの葉、ノカンゾウなどの植物を摘んできて料理に使います。僕自身もフランス本店での修行を含め、5年間彼の元でお世話になりましたが、森や山のなかから香りや味を引き出して料理するここでの経験が、今の僕の料理に活かされています。

自然に生えているからこそ体に馴染みやすい

コラム ちょっと“悪い香り”がおいしい料理のポイント!

私たちがおいしいと感じる鰹ダシの香り成分には、魚の生ぐさ臭が含まれていることが検証されています。少し不快なにおいが加わっている方が複雑な香りになり、「いい香りだな」と感じるのです。料理にあえて「不快なにおい」を混ぜているレストランもあります。イギリスの名店「ザ・ファット・ダック」で行われている例を2つご紹介しましょう。

  1. オリーブをこしたピュレにレザーの香りのエッセンスを加える。こうすると官能度が上がり、オリーブの味が強くなったように感じます。
  2. トマトソースにコーヒー豆を入れて一緒に煮る。苦み、渋みのあるコーヒー豆の香りが加えられることで、深みのある味わいになります。

香りの組み合わせに迷ったときの解決策は、
“自然のつながり”を意識すること

僕は、ひと皿の上で、香りのばらつきや不調和をつくらないようにしています。香りと香りをどう合わせたらいいのか、ご家庭で悩むこともあるのではないでしょうか。一つのポイントとして、イネ科やマメ科など、同じ“科”の食材を合わせるという方法があります。同じ科の食材同士だと、“共通している香り”があると思うんです。
例えば、この鮎の料理では、ソースに米酢を使っています。米はイネ科で、つけ合わせのとうもろこしも同じイネ科。鮎を笹の葉で包んで竹のせいろで蒸していますが、笹も竹もイネ科です。
似たもの同士の香りが、力を引き出し合うんです。

自然のつながりを意識すること

それから、同じ場所で育ったもの同士も相性がいいです。今回ご紹介している鮎のお料理では、川魚である鮎に、川のなかに生育しているクレソン、川のほとりに生育している山ザンショウを合わせました。

香りのコンビネーションは無限大。
失敗を恐れず、新しい香りにチャレンジ!

香りのコンビネーションは無限大です。失敗を恐れずに何でもチャレンジして、カラダで経験してみてください。きっと自分なりのポイントをつかめるようになるはずです。

香りのコンビネーションは無限大

僕が今、挑戦しているのは、山桜や針葉樹など、日本人に馴染みの深い木の香りを油に移すこと。山からいろいろな木をとってきてもらって、試しています。新しい香りの可能性を引き出してみたいんです。

まとめ

料理にとって香りが最も重要だということがわかりました。ちょっとだけ“悪い香り”が入っている方が、おいしい料理になるというのには驚きです。香りと香りのコンビネーションは無限大。食材、調味料、スパイスなど、いろいろな組み合わせにチャレンジして、オリジナルのレシピを考えてみるのも楽しいですね。
自然のなかから香りを引き出すのもおいしい料理づくりの一つのワザ。普段使ったことのない野の食材を探しに出かけたくなりました。

生江先生のお気に入りスパイス生江先生のお気に入りスパイス

ピンクペッパー

結実したての若い実から、熟して強い殻をまとう実まで、山ザンショウにはいろいろなステージがありますが、どの段階によるかで香りが変わるおもしろさがあります。

※山ザンショウは山椒と同様にミカン科
サンショウ属ではありますが、異なる植物で辛みや風味にも違いがあります。

プロフィールプロフィール

東原和成先生

生江史伸

1973年横浜生まれ。慶應大学卒業後、都内イタリア料理有名店で基礎を学ぶ。2003年、「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」に入店。フランスの本店で研修、ミシェル・ブラス氏に師事。帰国後、スーシェフに就任。2008年、英国ロンドン近郊の三つ星レストラン「ザ・ファット・ダック」でスーシェフ及びペストリー部門を担当。2009年帰国。2010年、東京・西麻布に「レフェルヴェソンス」を立ち上げる。http://www.leffervescence.jp/

[インタビュー・構成] 名須川 ミサコ

おいしさの秘密にせまる! おいしい香りの探求者

  • vol.1 東原和成先生vol.1 東原和成先生
  • vol.2 生江史信先生vol.2 生江史信先生
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