どこをいつ歩いても春はたのしい。毎朝ちいさな芽が現れて、夕方にはまた別の枝先にも柔らかな緑が芽吹いていたりする。彼らに挨拶しながら野のすみれを探して歩く。林を抜ける散歩道のおおきな岩の上で、ことしもまた咲いているかしら、スミレさん。苔に守られながら眺めの良い場所で咲くスミレに会いに行かなくちゃ。さて、スミレはたくさんの種類がある。日本にもそして世界中にも。この早春に、北ヨーロッパの林の中で、フランスのどこかの公園で、リトアニアのちいさな庭で、同じようにしゃがみ込んでスミレの花を眺めている人がいるのだなぁとおもうと嬉しくなる。2cmほどのスミレと、それよりもずっと大きな顔をした人間が香りに微笑んでいる姿。ギリシャ時代からスミレがくれる春のよろこびを今も変わらずこうして感じていることが不思議だし、素晴らしいなぁ、とおもう。ハーブの仲間とされているのはsweet violet、ニオイスミレ。スミレ科スミレ属花の神話の本をめくれば、必ずあるスミレの章。一番好きなのはこのお話。「全能の神ゼウスが 美しくて優しい巫女であるイオに心惹かれた。2人が仲良く語り合っているところへゼウスの妻ヘラが通りかかる。嫉妬深い妻のことを知っているゼウスはあわてて、イオを雌牛に変えた。そして牛となってしまったイオのために辺りにスミレをたくさん生やした」というもの。イオのioがvioletのつづりのなか密かにならんでいるという。ギリシャ語でスミレのことをイオンと呼ぶそう。純真なスミレさんは古代から美術作品に幾度ともなく描かれてきた。ここでご紹介するのはタペストリー「貴婦人と一角獣」の中のスミレたち。クリュニュー中世美術館所蔵のこの作品は中世ヨーロッパ美術の最高傑作とも言われているとか。この展示会のカタログはとても美しく、いつまでも眺めていたい大好きな画集の一つだ。タピストリー、つまりそれは織物なのだけれど,まるで絵画のようでそれぞれ3メートル四方ほどある大きな織物が6つの連作となっている。その中で「貴婦人」と「動物」と「植物」たちが幸福そうに綴られている。赤い千花紋様の背景に兎がかけめぐり、、草地の濃緑の中にスズラン、オダマキ、ヒヤシンス、ヒナギク、、、、野の花たちが無数にちりばめられている。見ているだけで野の花たちのおしゃべりが聴こえてきそう。そこにスミレ、をみつけた。「黄のスミレ」、「紫のニオイスミレ」、「白いニオイスミレ」,「青の森スミレ」、「白の森スミレ」、「青のパルマスミレ」水彩で描いたのは白いニオイスミレ、白の森スミレ。いつの時代にも人の近くで咲いていたすみれ、今年も我が家の周りのすみれたちをもっと観察してみようとおもう。

いまい かずよ