七草粥、ヨモギ団子、竹の子の若竹煮、蕗のおひたし・・・四季の美しい日本では、野山に季節のごちそうがいっぱい。知らず知らずのうちに自然のパワーをもらっています。





前テレビでフランスの田舎を旅する番組を見ていたら、おばあさんが家のまわりの野原で何かを一心に摘んでいました。レポーターが聞くと、サラダに入れるために野生のチコリの葉を摘んでいるとのこと。かたわらに空色のチコリの花が揺れていました。
 チコリといえば、快い苦みのある葉をサラダにミックスしたり、根をハーブコーヒーにしたりするハーブです。軟白栽培した葉はサラダ野菜として栽培されています。日本の野原にはないハーブですから、その番組を見たとき憧れに近い気持ちがしたのを思い出します。
 そんな憧れの気持ちを持ち続けながら、世界各国のハーブを育てて使ってきたわけですが、ふと足下を見てみれば、日本にもたくさん食べられる野草や薬草があったのです。
 大体世界のどこに、新年早々7種類の野草(野菜も含まれていますが)をお粥に炊き込んで食し、無病息災を祈る、なんていう国があるでしょうか。ユダヤ教の<過ぎ越しの祭り>では、苦いハーブを食べるそうですが、宗教的な意味合いが主なので、日本の七草粥のように、国中の人が当たり前のように、しかもおいしく食べるわけではなさそうです。



供の頃、五月五日の子供の日には、おにぎりだけ持って家族でピクニックに行き、土手でノビルを採り、クコの葉を摘み、スイバをかじったりしながら一日楽しく過ごしたものです。秋になるとアケビやぐみ、栗、銀杏などを採ってきました。
 野山に食べ物がある、そしてその贈り物を受け取る喜び。家に帰ると母や父がそんな野草や果実をおいしく料理して食べさせてくれる。私の子供時代を思い起こすたび、甘い幸福感と共に、その時の野草の香りや味わいがよみがえるようです。
 少なくなってきているとはいえ、今でも日本の野山は自然の恵みでいっぱいです。ただ、それを利用できる人が加速度的に減ってしまっているのです。私の家族では、田舎に住んでいた祖父母が野草や薬草についてよく知っていました。祖父母についていけば、食べられる野草や体にいい薬草を、まちがいなく採ってくることができたのです。父母もある程度それを受け継ぎましたが、私や妹、そして娘に至って、その知識と知恵は薄れるばかりです。
 柿の葉やびわの葉、ドクダミ、スギナなど野草茶にできる植物も、たくさん身の回りにあるにもかかわらず、市販の物を買ってきてしまうのが現代人です。昔から地域に伝えられた伝承療法も忘れられてきています。
 西洋のハーブのすばらしさを知り、それを広く伝えることを仕事にしている私が自分の身の回りの宝物には無頓着なのではいけないと数年前から、痛切に感じています。




んな中で道を照らすかのように、出会ったのが、摘み菜料理研究家の平谷けいこさんです。とあるイベントで、その土地に生えている食べられる植物を使って茶懐石を作り、食べさせてくださる場でした。
 はじめて食べるミズという野草の汁の、その名の通りみずみずしいおいしさ。萩の花のご飯。昼顔の花の甘酢漬け。松葉酒・・・。新鮮な味覚でした。
 平谷さんは、幼少の頃から食べられる山野草・薬草に親しみ、20年以上にも渡ってそれを幅広く伝える仕事をされている方で、「摘み菜を伝える会」を主催されています。「摘み菜」という言葉は彼女が考え出したものですが、根こそぎ採るのではなく、手で摘める分だけ、家族で少しずつ食べる分だけ、自然の恵みに感謝しながら摘んで使う料理なのです。昔から伝えられてきた料理もあれば、平谷さんが、工夫して考案した料理もあります。どれも、素材の味を生かしたおいしさが身上です。
 野生の植物を採取するわけですから、安全性には常に気を配らなければなりません。そのため平谷さんは、数々の文献をあたると共に、植物園や、専門家に問い合わせたりといった努力を常に続けています。でも、何より大切なのは、たくさんの経験を通してどの野草が食べられて、どう食べたらいいのかを身につけることだといいます。
 はじめは詳しい人について採集するのが必要だとも言います。また、はっきりしない場合は摘まない。それも決まりです。薬効にそれほどこだわらないのも平谷流。季節のものを、おいしく食べることが大事だと考えるからです。



のように、栽培したハーブを使うことに慣れたものには、採取するのは困難に感じられますが、もし、自然の恵みをないがしろにしてしまったら、近い将来それを生かせる人間はほとんどいなくなってしまうだろうと、思うのです。
 私は、平谷さんに出会ったことから、これから教えを請いながら少しずつ身をもって覚え使えるようになっていきたいと思っています。1人でも多くの人が私のような経験を持てるように、自然の贈り物を無駄にしてしまわないようにと、願っています。


参考文献:
『四季の摘み菜12ヶ月−健康山野草の楽しみ方と料理法』
平谷けいこ 山と渓谷社


  文:榊田千佳子.イラスト:いまいかずよ
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