私も日本古来の香辛野菜であるワサビの発がん抑制効果に着目し、スルフォラファンの類縁物質である「MSHI」というイソチオシアネートを単離しました。MSHIは、スルフォラファンの1.9倍の強さで解毒酵素群を活性化することを明らかにしました。

 では、ワサビとブロッコリーのどちらがより有効なのか? ちなみに、ブロッコリー中のスルフォラファン量は約25μg/gで、ワサビ中のMSHI量が約524μg/gであることから、約20倍もワサビの方が発がん抑制物質を含んでいます。しかし、ここで皆さんよ〜く考えてみて下さい。ブロッコリーは1回の食事でおそらく100gぐらいを食べることが可能ですが、ワサビはせいぜいその20分の1である5g程度だと思います。すなわち、結果的にはほぼ当量のがん予防イソチオシアネート類を摂取していることになるのです(図2)。

 ある野菜の1回の摂取量は各々だいたい決まっています。不思議とそれは人体に等しい有効性をもたらす機能性成分を含んでいる場合があり、正直、驚いてしまうことがあります。言い換えれば、まるで特定の生理活性成分の過剰摂取を未然に防ぐために、誰かが機能性成分量を計量してくれていたかのようです。今回の副題を何故「神様の計量スプーン」としたのか、皆さんはもうおわかりですね。メディアの情報に踊らされて、「体に良い食品」だからと言って過剰摂取することは危険な場合すらあるわけです。アブラナ科野菜の1つであるクレソンを米国で過剰摂取するブームが起こり、腎機能障害が多発したことを一例として挙げておきます。

 ごく当たり前の量の野菜を多品目摂取すること。そんな野菜たちを美味しく食べているとき、ふと「神様がこの量を決めて下さったのかも」と考えてみるのも楽しいと思いませんか?
今回の原稿も、お茶の水女子大学生活科学部食品化学研究室の森光康次郎先生にお願いしました。森光先生のプロフィールはこちら

  文:榊田千佳子.イラスト:いまいかずよ
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