こういった中で、がんの発生を遅らせるような成分を含んだ食品を積極的に摂取すれば、がんの死亡率を低下させることができると考え、最も期待が持てる食品として野菜と果物がクローズアップされました。これまでの疫学的調査研究の結果も、この考えを支持しています。そして、ミネソタ大学のワッテンベルグらによる先駆的研究が、アブラナ科野菜によるがん予防の可能性を広く世界に知らしめることとなりました。

 アブラナ科野菜に特徴的に含まれているイソチオシアネートやジチオールチオンといった含硫化合物(硫黄を含む成分)に、動物実験レベルで肺、結腸、乳腺の腫瘤形成(前がん症状)を抑制する働きを認めたのです。
 
 さらに、ジョーンズホプキンス大学のタラレーらの研究により、ブロッコリーからイソチオシアネートの1つである「スルフォラファン」という発がん抑制物質が単離されました。この物質は、肝臓などの臓器に於いて解毒酵素群(体内に入った毒物や発がん物質を無毒化する酵素群)を活性化することで、がんを予防できるというもので、動物実験レベルでの発がん抑制効果は実証されています。またタラレーらは、このスルフォラファンを成体の50倍もの濃度で含んでいるブロッコリースプラウトを見つけ出すことに成功し、現在のスプラウトブームの火付け役となったわけです。

 さて、アブラナ科野菜に含まれているイソチオシアネートという含硫成分、実はある種のアブラナ科野菜(ワサビや芥子、辛味大根など)において、あのツーンとする辛味や刺激を与える成分そのものだったのです(図1)。キャベツやブロッコリーのように辛味や刺激を殆ど感じないアブラナ科野菜でも、その素となる成分(グルコシノレート)は含まれており、単にイソチオシアネートへ変換する酵素(ミロシナーゼ)の活性が弱いだけなのです。グルコシノレートとして摂取しても、腸内でイソチオシアネートへと変換されるため、発がん抑制効果は期待できると考えられています。



  文:森光康次郎.撮影:榊田千佳子・他.イラスト:いまいかずよ.図表:立原雅子
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