「花言葉」、なつかしい響きです。初めて人を好きになった頃は、花言葉の意味が気になったりしませんでしたか。私は、片思いの人の机の中に、「あなたを想っています」という花言葉を持つパンジーの花をそっと入れておいたのを思い出します。いったいその人はその花をどうしたのやら・・・。スポーツマンの彼に、そんなセンチメンタルな告白は、全く的はずれでした。
 ところで、花言葉は、ビクトリア時代に一世を風靡しました。その発達には、タッジーマッジー(tussie-mussies) と呼ばれる小さな花束が深く関わっています。今回は、このタッジーマッジーと花言葉についてのエピソードをお伝えしたいと思います。




古代から、人間は身近な草花と共に生活してきました。その中で、薬としてあるいは食料としてなど、人の暮らしに役立つものとして見いだされた植物を、「ハーブ」と呼ぶようになったというのは、以前にお話ししました。そんな昔から人々は、草花の姿や性質から連想して意味を持たせてきたということです。草花を、宗教儀式やお祭りの捧げものにしたり、身の回りに飾ったりということも、はるか昔から行われていました。
  時代は過ぎ、中世のヨーロッパでは、コレラの流行から身を守る目的で、いい匂いの花やハーブで作ったタッジーマッジーが持ち歩かれました。また、儀式や収穫祭、子供の誕生祝い、結婚や葬式、病院や教会、法廷などでも花が使われるようになりました。
こういういい香りの花束は、ノーズゲイ (nosegay) とも呼ばれました。
 加えて16世紀には、タッジーマッジーを重要なアクセサリーとして身につけることが広まりました。恋人達は、花束をやりとりすることを好んでいたそうです。

ういった、ヨーロッパで象徴的に用いられてきた花の伝統に加えて、18世紀にトルコなどのオリエントに旅行することが流行ったことから、「トルコ式ラブレター」と呼ばれるものがもたらされたのです。
 これは、小さな箱の中に、それぞれ意味を持つさまざまなものが入れられ、手紙代わりに謎解きのような形でやりとりされていたものです。花だけではなく、洋なし、石けん、金の糸、真珠などが入った小箱が送られ、受け取り主は、それらが意味する内容を必死で解読しようとしていたことでしょう。

世紀に入り、この「トルコ式ラブレター」が形を変えてより象徴化され、花言葉だけが広く人々の興味をひくようになったのです。18世紀末にフランスでまず流行り、やがてイギリス、アメリカにも伝わったそうです。


 そしてこの流行が定着したのは、19世紀のビクトリア時代のはじめに、いくつもの花言葉の本が出版されるようになったことが大きいでしょう。恋人達も簡単に今の自分の気持ちをタッジーマッジー(花束)に込めることができるようになりました。
 まず、自分の気持ちを表す花(ハーブも)を選び出し、それをかわいい花束に組んで相手に送ります。メッセンジャーもいたようです。相手は、もらった花束の真意をくみ取るために、花言葉の本で調べて・・・という光景があちこちで見られたと想像されます。
 こうして、タッジーマッジーは、「語るブーケ」「言葉の花束」と呼ばれるようになったのです。

 近年、英国の伝統的なガーデニングが見直されたり、ハーブや香りのある草花に対する、ノスタルジックな気運も高まっています。いろいろ悲しいこと、厳しいことの多い世の中で、古き良きものへのあこがれがつのっているのかも知れません。

*花言葉は、19世紀にあまりに多くの本が出版されたせいもあって、まちまちですが、下に代表的なものをいくつかあげました。また、参考文献にした本には、植物別花言葉のリストとは別に、アルファベット順に、「あこがれ」「思いやり」「尊敬」などのように、感情別のリストもついています。英語で書かれていますが、とても興味深い本です。


  文:榊田千佳子.イラスト:いまいかずよ
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